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中国ビジネス実務指南


中国ビジネス実務指南― 麗澤大学外国語学部 教授 梶田 幸雄

【第207回】自動車ローンと自動車産業の発展可能性

節約志向が強かった中国消費者の間で、自動車ローンの利用が急速に広がっているという報道があった(Wall Street Journal 2016年9月4日)。消費を喚起したい中国政府にとっては、歓迎すべきニュースであるという。これは、ロイターが発信したニュースであるが、本当にこのように言えるだろうか。

デロイトのデータによると、自動車購入者の54%は商業銀行から融資を受け、自動車ローンの利用者は26%程度である(「中国汽車金融行路難 消費者覚得貸款没有必要」第一財経日報 2017年1月25日)。中国銀行業協会自動車金融専門委員会が発布した「2014年度中国自動車金融会社業界発展報告」によると、2014年の自動車ローン市場規模は6,500億元で2012年から2014年に14%の伸びを示し、自動車ローンの利用率は20%を超えた。しかし、この数字は先進資本主義国の60%超、米国の84%には遠く及ばない。

年収25万元程度の会社の中堅従業員であるような人は、100万元以上するような自動車を購入するとすればローンを考えるが、自分の経済力を考えて問題ない範囲内の価格の自動車を購入する。面子のための自動車を持ちたいとは考えないそうである。ほとんどの消費者は、15万元以下の自動車であれば、ローンを考えず、すべて手元資金で賄う。商業銀行の貸出し金利も低いところ、自動車ローンを組む必要性もない。 

自動車ローン会社の主な資金源は、資本金、銀行からの借入れ、金融債権の発行の3つがある。このうち、銀行からの借入れが最も大きい。銀行融資は、自動車産業の景気、グループ会社の規模、ブランド力によるという。このために消費者が銀行から融資を受ける方が、自動車ローンを組むよりも金利が低いということがある。自動車ローン会社にとっては不利な要因である。

そもそも自動車ローンというものがあまり理解できないと言う。中間層の消費理念はどちらかというと保守的である。したがって、第一財経日報の記事は、自動車ローンの普及には懐疑的である。

ただ、比較的に若い消費者は、自動車ローンの利用を積極的に考えることもありそうである。手元にある現金は、自動車購入以外の他の用途に使用したいという意向がある。このような傾向が見られるからであろうか、2020年には自動車ローンの利用率は50%になり、市場規模は2兆元になると予測されている。

中国自動車市場研究会社の新華信国際信息諮詢公司が発布したデータによると、世界の自動車産業の利益のうち、自動車ローンの貢献度は23%と最も大きく、次に部品生産が22%、修理・メンテナンスが17%と続き、新車販売は最も少なくわずかに5%でしかない。長城自動車の場合には、主に金融子会社のおかげで金利収入が140%増加したという。

現時点において自動車ローンが有効に機能しているのは、主に外資系企業である。上海GM金融は、2015年に57万件、2016年に82万件のローン契約を締結している。高級車については、ローンを組まなければ手元資金では賄えないからということになる。

このことを考慮すれば、自動車ローンの利用が増えれば、自動車産業の発展にも資することになる。中国汽車工業協会は、2016年の自主ブランド乗用車の年間販売台数が初めて1,000万台を突破したと発表した(経済日報 2017年1月25日)。2016年の中国の新車販売台数は、2,803万台で、13次5カ年計画期に3,000万台を超えると予測される。米国の1,755万台、日本の約500万台を大きく上回る。こうした傾向の中で、中国自動車メーカーも自主ブランドを伸ばし、高級車分野でもイノベーションが求められることになる。自動車ローンの普及が、この一翼を担うことになるのかも知れない。中国政府としても自動車ローンの活用が増えることを期待しているかも知れない。

【 梶田 幸雄氏 プロフィール 】

  • ●現職
  • 麗澤大学外国語学部 教授
  • ほかに中小企業総合事業団国際化支援アドバイザー、富山県貿易・投資アドバイザー、北京航空航天大学法学院兼任教授などを兼務
  • ●略歴
  • 学歴:中央大学大学院博士後期課程修了。博士(法学)
  • 職歴:財団法人日中経済協会、日本能率協会総合研究所、日本経営システム研究所
  • ●専門分野
  • 中国法、国際企業法、商法
  • ●研究業績(主な著書)
  • 『チャイナウォール』(通商産業調査会、1993年)、『中国への事業展開と法制度』(国際商事仲裁協会、1995年)、『中国進出企業のトラブル事例と解決法』(日本能率協会マネジメントセンター、1995年)、『中国投資はなぜ失敗するか』(共著、亜紀書房、1996年)、『日中対訳 中国進出企業の各種契約モデル書式集』(日本能率協会マネジメントセンター、2003年)、『中国国際商事仲裁の実務』(中央経済社、2004年)など。

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