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中国ビジネス実務指南


中国ビジネス実務指南― 麗澤大学外国語学部 教授 梶田 幸雄

【第211回】米中関係から見た中国貿易経済体制改革への要請

 今の米中関係は、グローバル経済下で派生する中国の対外経済・貿易政策上の問題に影響される関係というよりは、米国の国内問題に影響されている側面が強いように思われる。

米中貿易全国委員会(US-CHINA BUSINESS COUNCIL)は、Oxford Economicsに米中貿易関係を理解することに関する分析調査(Understanding the US-China Trade Relationship)を依頼し、この報告書が2017年1月に発布された。

米中の貿易インバランス、廉価な中国製品の米国市場参入による失業、インフレ率低下などが問題視されているところ、第三者の視点から米中経済関係を評価しようという試みであった。

Oxford Economicsの分析結果では、(1)中国企業がアメリカで約260万人の雇用を創出しており、(2)中国は米国から1,650億ドル(2015年)の財とサービスを購入し、全米輸出の7.3%、米国経済全体の約1%を占めているなど、米国にとって有用な存在でありことを示すものであった。

そこで、米中貿易全国委員会は1月23日に「両国の貿易関係は非常に重要であり、米国は中国の経済成長を脅威視せず、建設的な中米の貿易関係作りに努めていくべきだ。」と強調した(人民日報 2017年1月23日)。
ただ、米国の大企業が会員である米中貿易全国委員会としては、米国の現政権との関係もあり、単に肯定的評価だけをしているわけにはいかないという事情がある。また、中国の貿易・投資障壁が存在しないというわけではない。

このような観点からであろうか、米中貿易全国委員会は、2017年3月に“Statement of Priorities in the US-China Commercial Relationship”を発表した。 これは、米中経済貿易関係発展のために取り組むべき4項目の優先事項を中国側に提案、要望したものである。 この優先事項をごく簡単に示すと次のとおりである。 互恵互利の関係の基盤を強固にする。

二国間対話を強化し、外資の所有権規制を減らし、二国間投資条約交渉を再開し、国家安全特別措置の適用を制限し、外国企業に公平な競争環境を提供し、財政改革を進める。 貿易障壁を減らし、グローバルな貿易ルールを適用し、保護主義をやめる。

政治的影響を排除し、全国統一の方執行体制を整え、製品・サービス規格を国際基準にし、輸入障壁を解除して消費を奨励し、環境物品協定(EGA)を完成させる。 公平な競争と透明性の向上を図る。

サイバーセキュリティの緊張を緩和し、技術製品の同等の扱いを確保し、行政許可、政府調達において平等な待遇を与え、電子商取引法及びその他政策制定に関して透明性を高め、生産過剰を抑制し、安全で信頼できる食品と農産物貿易を確保する。 知的財産権保護を強化し、互恵互利をもたらすイノベーション政策を堅持する。

  知的財産権制度を強化し、法の執行を確保し、オンラインの偽物・海賊行為を強く 取り締まり、IP集約型製品の市場アクセスを改善し、商業秘密保護を強化し、国際的基準のイノベーション奨励政策を実行する。

以上の4項目の中国政府に改善を求める優先事項は、これまでにも指摘されてきたことであり、あまり新味はないかも知れない。それでも今の米国政権の下での米中貿易全国委員会の声明であることを考えると、中国政府は、この方向に沿った貿易経済体制改革を進めることにはなると考える。

さて、米国は中国と二国間の貿易経済交渉を進める。今まで、先進資本主義国が共通事項として改善を要請していたところ、二国間交渉が中心になる。そうであると、交渉妥結した結果は米中間だけのものとなり、他国には適用されないということが生じる。この点については注意しなければならない。

日本は、今、米国との二国間協議をどうしようかということに悩んでいるところだが、中国との二国間協議についても検討する必要が生じるかも知れない。また、先進資本主義国が一体化して中国政府に改善要請をするようなことも検討しなければならない。

梶田 幸雄氏 プロフィール 

  • ●現職
  • 麗澤大学外国語学部 教授
  • ほかに中小企業総合事業団国際化支援アドバイザー、富山県貿易・投資アドバイザー、北京航空航天大学法学院兼任教授などを兼務
  • ●略歴
  • 学歴:中央大学大学院博士後期課程修了。博士(法学)
  • 職歴:財団法人日中経済協会、日本能率協会総合研究所、日本経営システム研究所
  • ●専門分野
  • 中国法、国際企業法、商法
  • ●研究業績(主な著書)
  • 『チャイナウォール』(通商産業調査会、1993年)、『中国への事業展開と法制度』(国際商事仲裁協会、1995年)、『中国進出企業のトラブル事例と解決法』(日本能率協会マネジメントセンター、1995年)、『中国投資はなぜ失敗するか』(共著、亜紀書房、1996年)、『日中対訳 中国進出企業の各種契約モデル書式集』(日本能率協会マネジメントセンター、2003年)、『中国国際商事仲裁の実務』(中央経済社、2004年)など。



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